家主さんのお悩み解決 「出口」から考える 賃貸経営の収益改善計画
佐久川 靖行 (著)
2022年1月8日更新
昨今、不動産投資を通じた資産形成に興味を持つ人も多いのではないでしょうか。不動産投資には、継続的な家賃収入の確保に加えて節税効果も期待できます。
ただし、不動産業者に言われるまま投資を始めた結果、収益が赤字化したうえに節税もできていないという例も少なくありません。こうした例は不動産投資の失敗談として多いものです。失敗しないためには、投資運用に対する自分なりのビジョンを持っておくことが重要になります。
この記事では、法人を活用した資産形成・節税の方法として、「じぶんリート」という考え方をご紹介します。
法人の効率的な活用を通じて、税務対策と資産形成を進めていく考え方を「じぶんリート」と呼びます。
じぶんリートとは、著者が名付けた投資・運用のコンセプトで「不動産を中心とした投資運用・資産形成を、個人としてだけでなく、資産管理会社の設立を通じ、個人法人2つのチャンネルで行うこと」です。
個人と法人とでは課される税金と税率とが異なります。双方の「いいとこ取り」をすることで、資産形成を加速可能です。なお、法人の設立に関しては資産管理会社を活用します。
個人の給与所得と損益通算できる赤字の事業については、税務対策として個人で進め、利益が出る黒字の事業については、累進課税されない法人で進めます。
税金対策のためとはいえ、わざわざ赤字を生む事業をする意味はあるのか、疑問を持つ人もいるかもしれません。個人のほうで赤字を作るためには、実際に支出を超過するのではなく、減価償却費を活用します。
じぶんリートには、節税・分散投資・相続の面でそれぞれメリットがあります。
じぶんリートを活用すると、個人ではただの支出に該当する費用を、法人の経費として計上することで、節税効果を狙えます。
例えば生命保険の保険料は、個人名義で保険に加入すると家計からの支出となり、保険料の控除による限定的な節税効果しか期待できません。しかし、法人名義で保険契約して法人から保険料を払えば、保険料の全額を法人の経費として計上可能です。
じぶんリートでは、個人だけでの投資と違い、利益が上がっても税金を増やさない資産運用ができます。
例えば、個人で株式投資と不動産投資とを進めると、株式投資の収支は給与所得と分離課税されます。その一方で、不動産投資による収支は総合課税なので、給与所得と損益通算可能です。分離課税と総合課税との違いから、利益を上げても税金が増えてしまう可能性もあります。
しかし、法人では、複数種類の資産運用によって発生した利益と損失とを全部合算可能です。例えば、株式投資で利益が上がっても、不動産投資の減価償却費で相殺できます。個人での資産運用と比較すると、法人での資産運用は効率的です。
じぶんリートを活用すると、相続税を減らすことで次世代への資産承継にかかる負担を減らせます。
相続税の基礎控除減額や税率アップといった負担増の流れは、今後も加速することが予測されます。相続対策としてよく推奨されるのはアパート経営などです。しかし、アパート経営は、収益が上がらないと残された家族の負担になります。
資産を法人名義にしたうえで、法人の株式を相続すると相続人の相続税負担を軽減可能です。運用がうまくいっている法人所有の不動産を承継できれば、残された家族の負担もありません。
じぶんリートで資産形成を目指すにあたり、最初に投資するのは区分マンションです。区分マンションが最初の投資に適している理由について解説します。
資産の軸に不動産を据えるのは、不動産投資が以下3つのメリットを持っているためです。
特にサラリーマンで働いている人にとっては、ローンを活用できること・運用管理の手間が小さいことがメリットになります。
株式など金融商品投資は、短期的に大きな利益を得られる一方で、価値の上下動が大きく、常にマーケットウォッチを続けなければなりません。資産拡大の基礎としては、金融商品は手間がかかるうえにリスクが大きいものです。
じぶんリートの基礎には区分マンションが適しています。不動産の中では最も流動性が高いためです。また、ランニングコストにはなりますが、管理費・修繕積立金を支払えば、ハード面の管理を外部委託できます。
区分マンションの中でも、貸しやすさと売りやすさのバランスが取れているのは、1DKもしくは1LDKの物件です。万一空室期間が長引くようであれば、自分で居住する用途にも使えます。売却以外の選択肢も持てるのは大きなメリットです。
ここからは、じぶんリートのカギを握る法人の設立について解説します。
不動産投資家の間には、法人設立の最適なタイミングはいつなのか、疑問を持つ人も多いものです。給与所得が600万円以上で、不動産投資による利益を含む総年収が900万円〜1,000万円に達するのであれば、法人設立を伴うじぶんリートの開始を検討するタイミングといえます。
ただしこれは、黒字の不動産所得を持つ人が、いかに税金を抑制するかという観点で見た場合の話です。個人の節税のみに重きをおくのであれば、個人名義の不動産投資を拡大し、減価償却費を増やしていくほうが効率的といえます。
会社には株式会社や合資会社など複数の種類がありますが、資産管理会社に最適なのは合同会社です。合同会社には、株式会社と比較すると設立費用が少ない点や、決算公告不要で運営の手間がかからない点などにメリットがあります。
株式会社よりも社会的信用性が劣るため、取引にあたって融資を受ける難易度が高い点はデメリットです。しかし、資産運用という目的を考慮すると、頻繁に取引を重ねるわけではないので、それほど不利に働くポイントではありません。
会社設立にあたっては、家族を役員にして役員報酬を支払います。従業員とすると、労働時間と給与とのバランスに対し、税務署等からの指摘が入ることもあるので、家族は役員にしておくほうが無難です。
じぶんリートの考え方においては、不動産投資は1件目から法人で始めるのがベストです。個人で不動産を複数購入した後に法人を設立すると、所有名義を個人から法人へ変更するのに、登記費用などがかかります。
また、銀行からの融資を受けている場合は、銀行の許可も必要です。銀行が必ず許可してくれるとも限らないうえ、手続きも煩雑になります。
じぶんリート用に法人を立ち上げた後の不動産投資スキームについて解説します。
最もスタンダードなのは、以下の手順で進めるスキームです。
不動産投資における法人運用で採用される、最も一般的な方法が直接投資スキームです。ローンを利用する場合にも、法人名義で借り入れし、代表者は連帯保証人になります。
有効なスキームとしてもう1つ挙げられるのは、サブリースを活用したスキームです。転貸スキームは以下の手順で進めます。
4.の保証賃料の支払いについては、入居者から受け取った家賃の80%前後が一般的です。このスキームを採用すると、代表者の所得圧縮によって節税が可能となります。また、法人にも受取家賃の20%が収入としてストックされていきます。
じぶんリートにおける資産ポートフォリオの特徴は、ご紹介した直接投資スキームと転貸スキームとの組み合わせです。
例えば東京都心に立地するなど、資産性が高くリスクは低いものの、利回りが低い物件を個人名義で保有し、サブリース型のスキームで運用します。
個人視点で見ると利益は小さいものです。しかし、節税に主眼を置けば、不動産投資の赤字は拡大するほうが、その効果が大きくなります。
一方で、郊外に立地するなど資産性が低いうえにリスクがあるものの、利回りが高い物件を直接投資スキームで運用します。不動産投資の利益は大きくなりますが、家族に役員報酬を支払うほか、自分への役員報酬を抑制するなどして分散すれば、税金の抑制が可能です。
物件とスキームとを使い分けることで、効率的な節税と資産分散を目指すのが、じぶんリートの基本です。
まとめ
2020年現在、日本社会が抱える課題は多岐に渡っており、国民に課される税負担は年々増えています。所得税の最高税率引き上げや配偶者控除の見直しなどは、稼いでいる人にとって負担の増加につながる政策です。
稼げば稼ぐほどに負担が増える社会構造の中では、早いうちに資産防衛策を練る必要があります。生活に余裕がある人ほど、早めに資産防衛を進めることが重要です。じぶんリートの考え方は、これからの時代の資産防衛策として有効です。
【関連リンク】その他の本はこちらからご確認ください。
大林 弘道 (著)
2017年1月31日発行
人物
氏名
小川 進一
保有資格
・(公認)不動産コンサルティングマスター
・相続対策専門士
・不動産エバリュエーション専門士
・宅地建物取引士
・賃貸不動産経営管理士
・定期借地借家プランナー
プロフィール
不動産一筋35年!成約件数述べ5,000件以上。
自身も都内に複数所有している実践大家。